AIが出した仕訳案や回答案を、どこまでそのまま使ってよいのか。使えば速くなるのは分かっていても、自分の責任になる線が見えず、手が止まっている所長は多いはずです。
結論から書きます。生成AIには下書き・整理・調べものの入口までを任せ、税務の判断と申告書への反映、顧問先への回答は、税理士が出力を確認してから出せば足ります。
この記事は、AI導入の判断を一緒に行う「AI関所」を運営する合同会社てんが書きました。私は税理士ではありません。条文と官公庁の文書の範囲で整理し、事務所ごとの判断が要る部分は、そう書き分けています。顧問先の資料をAIに入れてよいかは、別の記事で扱っています。
税理士の仕事は3つ。確認の責任は、どの場面でも残る
税理士法2条は、税理士の業務を税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つと定めています。 AIに任せる範囲を考える前に、この3つのどこに手を入れるのかをはっきりさせます。
| 税理士法2条1項の業務 | 中身 | AIに任せるなら |
|---|---|---|
| 税務代理 | 税務署への申告・申請や、調査・処分に関する主張・陳述を代理・代行する | 任せない。AIは代理人になれない |
| 税務書類の作成 | 税務署へ出す申告書等を作る | 下書きまで。申告書として出す前に税理士が全体を確かめる |
| 税務相談 | 課税標準等の計算について相談に応じる | 調べものの入口まで。回答は税理士が決める |
同条2項は、これらに付随して、財務書類の作成や会計帳簿の記帳の代行その他の財務に関する事務も行えると定めています。記帳の補助は、この付随業務の範囲にあたります。
業務ごとの結論は同じです。AIが作ったものを税務署や顧問先へ出すのは税理士で、出す前の確認の責任は税理士に残ります。
AIの出力は誤ることがある。使う側の確認が前提になる
個人情報保護委員会は、生成AIの応答に不正確な内容が含まれることがあると注意しています。 令和5年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」は、次のように述べています。
一般の利用者における留意点(要旨)
- 生成AIの応答結果には不正確な内容が含まれることがある。応答は確率的な相関関係に基づいて生成されるため、不正確な内容の個人情報が含まれるリスクもある。そのリスクを踏まえて適切に判断すること
税理士法には、確認を怠った場合の定めがあります。45条は、税理士が故意に真正の事実に反して税務代理や税務書類の作成をしたときは、2年以内の業務停止または業務禁止の処分ができるとしています。2項は、相当の注意を怠って同じ行為をしたときは、戒告または2年以内の業務停止の処分ができるとしています。
条文はAIに触れていません。ただ、AIが出した誤りを確かめずに申告書へ載せれば、「相当の注意を怠り」にあたるかどうかが問われ得る構造です。あたるかどうかは個別の事情で決まります。これは条文の構造からの私の読みで、法律の判断ではありません。
作業ごとの線引き表
作業を「任せる・下書きまで・任せない」の3つに分けます。 次の表は、条文と上の注意喚起をもとに私が整理した目安です。法律の基準ではなく、事務所のルールを作る出発点として使ってください。
| 作業 | 線引き | 出す前の確認 |
|---|---|---|
| 調べものの入口(制度の概要、用語の意味) | 任せる | 条文・通達・国税庁の資料で裏を取る |
| 面談メモや議事録の要約 | 任せる | 数字・固有名詞・期日を元のメモと突き合わせる |
| 仕訳の候補、科目の振り分け案 | 下書きまで | 元の証憑と金額・日付・科目を照合する |
| 顧問先への文書・メールの文案 | 下書きまで | 内容と言い回しを税理士が読み、自分の言葉に直す |
| 申告書・届出書の作成 | 下書きまで | 全体を税理士が確かめてから出す |
| 税務上の判断(適用する制度、結論の決定) | 任せない | 税理士が決める。AIの案は参考にとどめる |
| 税務署への主張・陳述 | 任せない | 税理士が行う |
「任せる」も、確認が不要という意味ではありません。調べものの入口は、AIが示した条文名や制度名が実在するかを、必ず一次の資料で確かめます。
出力を使う前の3つの確認
AIの出力を使う前に、「元資料と合うか」「今年度の制度か」「根拠が実在するか」の3つを確かめます。 確認のやり方を決めておくと、職員が使うときも同じ水準を保てます。
| 確認 | 見ること | 例 |
|---|---|---|
| 元資料と合うか | 数字・日付・名前を、証憑や元のメモと照合する | 仕訳案の金額を領収書と突き合わせる |
| 今年度の制度か | 改正前の内容が混ざっていないかを確かめる | 適用年度と施行日を、法令や国税庁の資料で見る |
| 根拠が実在するか | AIが挙げた条文・通達・判例が実在し、内容が合うかを見る | e-Gov法令検索で条文を開いて読む |
「誰が確認したか」を残すことも大切です。確認者の名前と日付を、案件のメモに1行書いておけば、あとから見返せます。
顧問先への回答は、AIの文を税理士の名前で出す
顧問先へ出す回答は、AIが作った文であっても、出す判断をしているのは税理士です。 税理士法52条は、税理士または税理士法人でない者が税理士業務を行うことを禁じています。AIは税理士ではないため、税務相談への回答をAIの出力のまま顧問先へ流す運用は、税理士業務を税理士が行っていると言いにくくなります。これも条文からの私の読みです。
実務では、AIの文案を土台にして、税理士が内容を確かめ、自分の言葉で書き直して送る形が安全です。顧問先への文書の線引きは、上の表の「下書きまで」にあたります。
よくある質問
AIが作った仕訳案を、そのまま取り込んでよいですか?
元の証憑と照合してから取り込みます。仕訳案は「下書きまで」の作業です。金額・日付・科目を確かめ、ずれがあれば直します。
税務の調べものは、AIの回答だけで足りますか?
足りません。AIが示した条文や通達が実在するか、内容が合うかを、e-Gov法令検索や国税庁の資料で確かめます。確かめるまでは、調べものの入口として使います。
職員がAIを使った場合、責任は誰にありますか?
条文は職員の使い方まで定めていません。事務所として「誰が確認して出すか」を決めておくのが現実的です。確認者の決め方は、所属の税理士会や顧問弁護士にもご相談ください。
まとめ
生成AIには、調べものの入口・要約・下書きまでを任せます。税務の判断、申告書への反映、顧問先への回答は、税理士が確認してから出します。出力は「元資料と合うか」「今年度の制度か」「根拠が実在するか」の3つで確かめ、確認者を記録します。
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AI関所のサービス内容を見るこの記事を書いた人
疋田 悠人(ひきだ ゆうと)です。合同会社てんの代表で、AI導入の判断を中小企業の経営者と一緒に行う「AI関所」を運営しています。税理士ではありません。この記事は法律の助言ではなく、公開されている条文と官公庁の文書をもとにした整理です。
出典・参考
- 税理士法 2条・45条・46条・52条 (e-Gov法令検索・2026年10月7日確認)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等 (個人情報保護委員会・令和5年6月2日・2026年10月7日確認)


